2013年5月10日金曜日

中学英語の長文書き下ろしの大変さ

中学英語用の長文を書き下ろしている人にとってはよく分かることですが,この作業の一番の難関は,「中学英語の文法の範囲で書かなければならない」という点です。「中学英語の語彙で書かなければならない」という点も大変ですが,「注釈」という武器があります。文法については,高校英文法のまま採用して注釈をつける,という対応は通常認められていません。

現在愛読中の,マーク・ピーターセン氏の「実践 日本人の英語」では,中学英語に関わる興味深いこと(批判)がいろいろ書かれています。その一つが,「なぜ仮定法が中学で習わないのか」。

そうなんですよね。仮定法を中学レベルに書き換えることはほぼ不可能なのです。たいていの場合,苦し紛れに(あるいは何の罪も感じず)普通の条件ifが使われています。間違いは間違いなので,私は意地でも話の流れをアレンジしたものですが,仮定法がメインのストーリーはお手上げです。逆に言うと,中学生は仮定法がメインのストーリーを体験できないということですね。

その他の典型的な例をいくつか。

I couldn’t believe what he said.の類。関係代名詞whatは中学では未習なので,たいていI couldn’t believe his words.となっています。この「誰かが言ったこと」を意味するwordsが教材や入試でどれほど頻繁に使われていることか。多くの場合,「彼の言葉に感動しました」のような「言葉」のつもりで使われていると推測できるのですが,やはりほとんどはwhat  ~ sayが自然な文です。

あと,「知覚動詞+目的語+分詞」系ですね。I heard him playing the guitar.の類です。I saw a dog walking in the park.なら,現在分詞の後置修飾(公園を歩いている犬を見た?)と捉えて許容,とする編集者もいるかも知れません。しかし,I heard him playing the guitar.では現在分詞の後置修飾という捉え方はできないので,やはり中学範囲外の文となります。そこで,I heard his guitar.なんて英文が生み出されるわけです。
これも仮定法並みに書き換えが苦しい部類です。I heard him singing.I heard his song.になっていたり。意味が変わっているし!

高校文法→中学文法という書き換えだけでなく,中1,2用の模試などで,高校入試問題の素材文をリライトした文章を見る機会もよくあります。レベル的に無理がありますね。

中学英文法範囲内でいかに自然な長文・対話文が書けるか。相当特殊な技術が必要です。

 

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