2013年5月19日日曜日

単発文中のaとthe,そして「その」はtheかthatか?

文法教材を中心に,文脈のない単発英文を必要とする教材を校正していると,冠詞の使い方でペンが止まることがとても多いです。atheには大きな違いがあるわけですが,その文が使われる場面状況がすぐに思い浮かばないケースです。

I know the man.「私はその男性を知っています」

たとえば,この英文は文法的に正しいのかもしれません。しかし,わたしは考え込んでしまいます。theは文脈があって使うものだから,いきなりこの文だけ見ると気持ちが悪いのです。

aならまだましかもしれません。仮に,I know a ... を使って中学生用に短い文を作るとなると,
I know a nice restaurant.
I know a good place for fishing.
I know a man who speaks Chinese.
などが思い浮かびます。しかし,これもtheと同様に,

I know a restaurant.「私はレストランを(1軒)知っています」
だけだと不完全です。


次に,aとtheの問題ではなく,「その」に着目してみます。

「その」=theというイメージがあると思いますが,実際の会話ではthatもかなり使われます。
試しにこんな場面に当てはめてみます。

A:「公園でバイオリンを弾いている男の人を見たよ」
B:その人,知ってる。彼,上手いよね」

A: I saw a man playing the violin at the park.
B: I know that man. He’s very good, isn’t he?

日本語だと「私はその男性を知っています」ですが,わたしなら,この文脈ではI know the man.ではなく,thatを使います。理論的にどうこうは考えたことがなく,繰り返し受けてきたネイティブチェックで身についた感覚です。

よって,最初の例に戻ると,

I know the man.「私はその男性を知っています」

という英文では「う~ん(manを限定させるために修飾句をつけたい…。でもknowか…)」と,ペンが止まりますが,

I know that man.「私はその男性を知っています」

だとスルーすると思います(中学教材では見ませんが)。I know the man.と比べて,この英文だと"この文1文のみで"使われる場面が想像できるからです。

2013年5月15日水曜日

必ずしもit=「それ」ではない場合(中1)

中学1年の初めのほうに習う文法から。

What’s this? It’s a pen.
「これは何ですか」-「それはペンです」

What’s that? It’s a hospital.
「あれは何ですか」-「それは病院です」

このように,応答の主語Itを「それ」と訳してある教材が多いと思います。確かに,上のthisのパターンでは違和感ないですが,下のthatのパターンでは,日本文だけを読み返すとなんだかおかしくないですか?

thatを使っているので病院は遠目にあります。でも,日本語の「それ」は比較的近いところにあるモノに使うはずだからです。

つまり,「itは必ずしも日本語の『それ』とはならない」というルールがここにも当てはまるわけです。このitはあくまで相手の発言の中で指し示したモノを受けるit,あるいはthis/thatで聞かれてthis/thatの反復を避けるためにitを使っていると考えてもよいでしょう。「それ」と訳すくらいなら,「あれは何ですか」「あれは病院です」のほうがまだイメージが近いくらいですね。もっとも,it=「あれ」とは習わないので余計に混乱を招きますが。

したがって,訳は,

What’s that? It’s a hospital.
「あれは何ですか」-「病院です」
「あれは何?」-「病院よ」

がベストではないでしょうか。

中1のこのレベルでは,どうしても一字一句日本語に置き換えないとダメだという慣習?からの指摘でした。

2013年5月13日月曜日

soonは「すぐに」?

一部の英和辞典にsoonの訳として「すぐに」があるのですが,これが原因なのか,soonの使い方やその和訳で違和感を覚えることがとても多いです。(文脈によります)

"Hurry!" "Sorry, I’ll come soon."「急いで」「ごめん,すぐに行くよ」の類です 。

つまり,日本語の「すぐ(に)」は「直ぐ」「直ちに」の意味のはずで,at once, immediately, right nowなどがより適切な英文&和訳が多いです。

英語の定義では,soonin or after a short timeとなっていますが,あくまでsoonは「もうすぐ,まもなく」(before long)のイメージだと思います。

at onceやimmediately(すぐに)ではなくsoon(もうすぐ)が適切な例で比較してみましょう。

"What time will she come? It's already three o'clock." "I think she will come soon." (= before long)


敢えてsoon=「すぐに」がふさわしい文を思い浮かべると…

I’ll call you as soon as possible.「できるだけ早く」(soonearlyの語義ですが,相手への気遣いで「できるだけ『直ぐに』」)

I’ll call you soon after I get there.「~したらすぐに」(afterのみでも成り立つところ,soonで「直ぐに」と強調)

You’ll get well very soon.(「今すぐにでも良くなって欲しい」との気持ちから)

あたりでしょうか。
いつも言いますが,英和辞典などの「単語」=「意味」の一辺倒では具合が悪いことが多く,なんでこの意味に固執しているんだろう?と辞典を見ると,なるほど・・・という例に多く出会います。
教科書の巻末リストの意味もしかりです。
辞典は上手に使いたいですね。紙面が限られているので,こんな文脈,こんな場面状況ではこの意味になる,なんて全部詳しく説明できませんから。

2013年5月10日金曜日

中学英語の長文書き下ろしの大変さ

中学英語用の長文を書き下ろしている人にとってはよく分かることですが,この作業の一番の難関は,「中学英語の文法の範囲で書かなければならない」という点です。「中学英語の語彙で書かなければならない」という点も大変ですが,「注釈」という武器があります。文法については,高校英文法のまま採用して注釈をつける,という対応は通常認められていません。

現在愛読中の,マーク・ピーターセン氏の「実践 日本人の英語」では,中学英語に関わる興味深いこと(批判)がいろいろ書かれています。その一つが,「なぜ仮定法が中学で習わないのか」。

そうなんですよね。仮定法を中学レベルに書き換えることはほぼ不可能なのです。たいていの場合,苦し紛れに(あるいは何の罪も感じず)普通の条件ifが使われています。間違いは間違いなので,私は意地でも話の流れをアレンジしたものですが,仮定法がメインのストーリーはお手上げです。逆に言うと,中学生は仮定法がメインのストーリーを体験できないということですね。

その他の典型的な例をいくつか。

I couldn’t believe what he said.の類。関係代名詞whatは中学では未習なので,たいていI couldn’t believe his words.となっています。この「誰かが言ったこと」を意味するwordsが教材や入試でどれほど頻繁に使われていることか。多くの場合,「彼の言葉に感動しました」のような「言葉」のつもりで使われていると推測できるのですが,やはりほとんどはwhat  ~ sayが自然な文です。

あと,「知覚動詞+目的語+分詞」系ですね。I heard him playing the guitar.の類です。I saw a dog walking in the park.なら,現在分詞の後置修飾(公園を歩いている犬を見た?)と捉えて許容,とする編集者もいるかも知れません。しかし,I heard him playing the guitar.では現在分詞の後置修飾という捉え方はできないので,やはり中学範囲外の文となります。そこで,I heard his guitar.なんて英文が生み出されるわけです。
これも仮定法並みに書き換えが苦しい部類です。I heard him singing.I heard his song.になっていたり。意味が変わっているし!

高校文法→中学文法という書き換えだけでなく,中1,2用の模試などで,高校入試問題の素材文をリライトした文章を見る機会もよくあります。レベル的に無理がありますね。

中学英文法範囲内でいかに自然な長文・対話文が書けるか。相当特殊な技術が必要です。

 

2013年5月5日日曜日

「生の英語」must&受け身

ニュージーランドで撮った写真から学ぶ「生の英語」。

日本人があまり自然に使えないmustと受け身。
この両方が使われている看板の写真を見つけました。




2013年5月1日水曜日

itとthatの使い分け&「もの」「こと」の表し方

いつも通り,中学レベルです。

日本語では同じ「それ」を意味する
itthat自然に使い分けられるかどうかは,ネイティブ感覚に近づいている指標の一つになるかもしれません。

大ざっぱに言うと,itは主に名詞を受け,thatはもう少し広い感覚です。

例えば相手が
How long are you here for?
と言い,さっぱり意味がわからずもう一度言ってほしければ,
Sorry, could you say that again?
と言えます。thatは相手の言ったこと全体を受けています。

同じく相手の言うことが理解できないときの定型表現によく
Could you say it again?
というのを見かけますが,上のシチュエーションではやはりちょっと変な感じがします。
どんな内容,あるいはどの部分が聞き取れなかったのかによってitthatはやはり使い分けるものだと思います。

他の例です。

A: I have a question.
B: What is it?

このita questionのことです。

A: Everything is going well, but I want to do something.
B: What’s that?

このthatsomethingではなく,want to do somethingを受けているイメージです。
英語のsomethingの使い方もポイントです。つまり,文意から,このI want to do somethingは,「(何でもいいから)何かしたいの」(「何かって何?」)でなく,「(実は)したいことがあるの」「そのしたいことって何?」「何がしたいの?」という感覚でしょうか。

一方,同じsomethingを使った

A: Can I ask you something?
B: Sure. What is it?
だと,thatでなくitです。itsomethingですが,一つ前のパターンでもわかる通り,somethinga questionというイメージです。


ちょうどよいので,somethingつながりです。
「~なもの」「~なこと」をどうしても「形容詞+thing」で表しがちな日本人。「-thing+形容詞」をもっと使いこなしたいですね。

「何か新しいことに挑戦したい」
I want to try a new thing.
  
I want to try something new.

「その広告で面白いものを見つけました」
I found an interesting thing in the advertisement.
  
I found something interesting in the advertisement.

somethingと使うことで相手の興味を引き起こす効果もあります。逆に,具体的に言うのを避けるときや,具体的に言う前の前置きにも使います。

Sorry, I can't go. I have something to do tomorrow.
I have something to tell you.


something以外の例です。

「クリスマスには何か特別なことをする予定ですか」
Are you going to do a special thing at Christmas?
  
Are you going to do anything special at Christmas?

a special thingだと特別なことが1つしかないと決めつけた質問になってしまうためにおかしな文です。anything specialだと数は限定されません。

「すべきことがたくさんあります」
I have a lot of things to do.
  
I have a lot to do.

「たかが中学英語,されど中学英語」です。